こんにちは!
妻に妊娠中に一番何がしんどかったか聞いてみたら、とにかく足がつって毎日明け方に起こされるのが辛かったと言っていました。
特に僕が当直の時は、足がつっても自分で対処しないといけないのが大変で、毎日寝るのが怖かったようです(泣)
確かに外来でも同じ悩みを持っておられる方は多く、実に6割の妊婦さんが足がつって困っていると言われています。
ということで今日は、妊娠中に足がつりやすくなってしまうことについて、その原因や対策をお伝えします!
#one
今日お伝えしたいこと
今日お伝えしたいことは、「下半身の血流をよくすることを意識して!お薬やサプリメントも効果的。痛みが強かったり腫れるようならすぐに病院に相談を!!」です。
では順番に解説していきますね。
1) なぜ妊娠中は足がつりやすいの?

妊娠中に足がつりやすくなる原因は、『血液の巡りが悪いから』と『電解質(ミネラルバランス)が崩れるから』です。
子宮が大きくなると、血管が圧迫されて下半身の血液が心臓まで還ってきづらくなります。新鮮でない血液が下半身にとどまることで、ふくらはぎの筋肉が疲労・興奮化し、けいれん(こむら返り)が起こりやすくなります。
また妊娠中は、赤ちゃんに栄養を送ってあげるために血液量が増加しています。逆に言うと血液が薄まっている状態なんです。すると電解質(いわゆるミネラル)のバランスが崩れ、筋肉が過剰に興奮しやすくなってしまうんです。具体的にはマグネシウムやカルシウムが関連していると言われています。
特に夜寝ている間は、脱水になってますます血液のめぐりが悪くなったり、寝ている間に電解質が消費されて不足しやすくなることで、足がつりやすくなるんです。
2) どんな人が特につりやすいの?

妊娠後半期の方を対象とした研究では、以下の項目に該当する方は特に足がつりやすいことが報告されています。
- 妊娠週数が進む
- 経産回数が多い
- 下半身のむくみが強い
- 胃腸症状がある(後期つわりによる吐き気や便秘など)
妊娠週数が進んで子宮が大きくなったり、何度か妊娠をしている方は、下半身の血流が上半身に還ってきづらくなることが知られています。後期つわりなどで十分に栄養がとれていない方は電解質バランスが崩れがちになります。便秘で強くいきむことは、下半身の血流うっ滞を引き起こしてしまいます。
また長時間の立ち仕事をしている方や睡眠の質が低い方、妊娠糖尿病を指摘されている方は、足のつりやすさとは明らかな関連がないものの足がつったときの痛みが増すことが報告されています。
3) 日常生活で何を気を付ければいいの?

では、足のつりを軽減するためにはどのようなことに気を付ければいいのでしょうか。ここからは、「医学的に有用性が証明されている」足のつり対策をお伝えしていきますね。
A. 就寝前にふくらはぎのストレッチをする
ある研究では、寝る前のふくらはぎストレッチを継続することで、一晩に足のつりが平均1.2回減少することが報告されています。妊婦さんに限定した研究でも、ストレッチをする前と後では足のつりが半減したとする報告もあります。
具体的な手順は以下の通りです。寝る前の5分間で試してみてください。

寝る前の5分間ふくらはぎストレッチ
- 両手を壁について、片ひざを曲げて前に置き、もう一方のひざは伸ばして後ろに置く。身体を前に倒してふくらはぎが伸びるのを感じる。左右それぞれ30秒を2セット行う。
- ①と同じ姿勢で後ろの足の膝を軽く曲げる。左右それぞれ30秒を2セット行う。
- ベッドに足を投げ出して座り、片足を前に伸ばしてつま先を手前に引く。届かなければタオルを使ってもOK!左右それぞれ30秒を2セット行う。
- ③の体勢でつま先から手を放し、足関節ゆっくり回す。左右それぞれ10回ずつ1セット行う。
特に③の運動は実際に足がつったときにも効果的です。
B. 寝るときの体勢を工夫する
左側を下にして寝ることで、下半身からの血流が上半身に還ってきやすいことが知られています。下半身の血液を上半身に送る血管は下大静脈と呼ばれていますが、体を30°左に傾けることで下大静脈の太さは最大で2.6倍になることが分かっています。更に股関節や膝を少し曲げてあげることでより下半身の血液うっ滞を解除することができます。
C. 日中から足関節を動かしたり、むくみ対策をする
足関節を上下に動かしたり適度に歩くことで、下半身の血流のめぐりがよくなります。またむくみが強い場合には弾性ストッキングを着用したり、長時間の立ちっぱなしを避けることも有効であると報告されています。
D. 寝る前にお風呂につかり、コップ一杯の水を飲む
実は厳密には、これらの対策で足のつりが改善することは研究で証明されていません。そのため今までお伝えした対策よりは優先度が低くなります。ただ脱水になると血液のめぐりが悪くなることを考えると、寝る前にコップ1杯の水を飲むことは有効な可能性があります。夜にトイレに起きてしまう方はその時にも水分を摂取するようにしてみましょう。
またお風呂につかることで血流がよくなる上、睡眠の質も改善する可能性があります。おすすめは、お休みになる1~2時間前に、40℃くらいのお風呂に10分程度つかることです。
4) お薬やサプリメントは効果あるの?

サプリメントではマグネシウムの有効性が報告されています。また病院から処方されるお薬では、『芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)』と呼ばれる漢方が有用です。なおその他にもカルシウムやビタミンBなどが足のつりに効果があるというウワサもありますが、医学的にこれらの有効性は証明されていないため今回は省略します。
① マグネシウムサプリ
マグネシウムには、筋肉の興奮に関与するカルシウムを調節してくれる作用があります。体内でマグネシウムが不足することが、ふくらはぎの筋肉が過収縮し足がつる一因になっていることが知られています。
マグネシウムの摂取が足のつりにどのくらい有効かに関しては複数の研究がありますが、その結果はまちまちです。中にはマグネシウムのサプリメントを4週間内服することで、実に86%の方が足がつる頻度が半減したという報告もありますが、明らかな効果は実証されなかったとする報告もあります。用法用量を守れば重い副作用が出ることも少ないので、悩んでおられる方は試してみる価値はあるでしょう。
中でも『ビスグリシネートマグネシウム』という種類のマグネシウムが最も身体に吸収されやすいとされていますが、日本のドラッグストアでは販売されていません。ご担当の先生方も「ネット買った輸入サプリを飲んでもいいよ」とは言いづらいかと思います。まずは市販のサプリメントから試してみることをお勧めします。なおサプリメントを選ぶ場合は「酸化マグネシウム」と書いてあるものは避けてください(酸化マグネシウムは便秘薬であり、マグネシウムの補充を目的とした薬ではありません)。
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)
足がつったときに飲む漢方と言えば『芍薬甘草湯』です。筋肉の過剰な収縮を抑えてる効果があり、内服して5分ほどで効果を発揮してくれると言われています。
寝ている間に足がつりやすい方は、夜お休みになる前に1包飲むことが多いです。ただ、お薬の持続時間は一般に4~6時間と言われています。そのためいつも明け方に足がつるという方には、この飲み方では効果が乏しい可能性があります。寝ている間に一度はトイレで起きるという場合には、起きた時にコップ一杯の水と一緒に内服するのもいいかもしれません。
なお、芍薬甘草湯は不必要に飲みすぎると血圧が高くなったり浮腫や不整脈が出ることがあります。内服の方法や注意点は、ご担当の先生によく確認してみてくださいね。
5) 病院を受診するべきタイミングは?

足がつるのと同じように下半身の血流がうっ滞することでふくらはぎが痛くなる他の病気があります。「深部静脈血栓症」です。足の血管内で血が固まってしまい、「血栓」を作ることでふくらはぎが腫れたり痛くなってしまいます。この血栓を放置していると肺に詰まってしまうことがあり、突然命に係わる危険な状態になってしまいます。
妊娠中は深部静脈血栓症を発症しやすくなることが知られています。これらの症状がある場合はすぐに病院に相談してみてください。
- 片脚だけがむくむ
- ふくらはぎを押すと痛く、歩くと更に強くなる
- ふとももが赤く、触るとあたたかい
- 突然の胸の痛みや息切れがある
6) 今日のまとめ
今日も長い文章を読んでいただきありがとうございました。ここまで読んでくださった方は「下半身の血流をよくすることを意識して!お薬やサプリメントも効果的。痛みが強かったり腫れるようならすぐに病院に相談を!!」の意味をご理解いただけたかと思います。
体質によってはなかなか改善しない方もいらっしゃるかとは思いますが、少しでもお役に立てれば幸いです。
皆さんが少しでも快適なマタニティライフを送ることができることを応援しています!